■第10試合
壱・センチャイジム (センチャイムエタイジム) VS 嵐 (KING gym)
8月8日、記者会見において55㎏トーナメント「KICKBOXING JAPAN CUP 2024」の開催が発表となった。当初は出場8選手が明らかとなる場であったが、ここで嵐が「みんな弱そう。特にコイツをぶっ飛ばす」と壱との対戦を要求。壱は「やめろそんなこと」と嵐をたしなめがらも対戦に関しては承諾し、両者の希望と合意を受け、後に1回戦での激突が正式に決定した。
しかし嵐はその後の8月30日、初参戦したONE Friday Fightsで2R KO負け。上背のあるイマッド・サヒのリーチを持て余し、右フックから左ミドルを浴び敗れてしまった。
対して壱は4月に古村光から判定でKNOCK OUT-REDスーパーバンタム級王座を獲り戻し、6月はムエタイ戦士チョークディーをヒジで切ってのTKO、7月はONE Friday Fightsを判定でクリアし、8月もムエタイ戦士に判定勝ちと連勝で好調。戦いの完成度を高めており、トーナメントでも優勝候補に推す声が多い。
直前の試合で敗北し、ベストは王座を保持する1階級下のバンタム級、戦績は相手が倍以上、身長も相手が8㎝上と不利な要素が並ぶ嵐だが、“ピンチはチャンス”の言葉通り、一番手の壱を倒しさえすればトーナメントを自分のものとすることができる。
事前の取材も断り試合に集中する嵐に対し、壱は「嵐くんが僕に勝てるとしたら打ち合いに巻き込んでの1発。それがしたくて煽ってきてるのが分かる」と看破し、「それには乗らないで綺麗にムエタイします」と宣言。
下馬評通りに壱が退けるのか、あるいは嵐がトーナメントの醍醐味である番狂わせを巻き起こすのか。
■第9試合
真琴 (誠輪ジム) VS 森岡悠樹 (北流会君津ジム)
今年2月、真琴と大田一航の間で行われたNJKFスーパーバンタム級王者決定戦は一つの事件となった。
戦前はWBCムエタイ日本統一バンタム級王座など数々の戴冠を誇る一航が圧倒的有利で、キャリアに新たなベルトを加えると見られていたが、この階級では175㎝と長身の新鋭・真琴は負けじと互角に渡り合う。
風向きが大きく変わったのは3R、真琴はヒジを決めてカットを奪い、一航に2度のドクターチェックを呼び込む。ドクターストップもよぎる一航はパンチで猛攻も、そこへ真琴は飛びヒザをグサリ。これで決定的なダウンを4Rに奪い、5Rは一航の反撃をしのいで判定勝利。下馬評を覆し、19歳(当時)の新王者が誕生となった。懐が深く、リーチを活かした蹴りはもちろん、この試合で見せたヒジ・ヒザと攻略しづらいスタイルを持つ。
そんな真琴と1回戦を争うのはKNOCK OUTとスックワンキントーンを股にかけ戦う森岡。今年は5月にONE Friday Fightsで初回KO勝ち、逆に6月にはシュートボクシングで1R KO負け、しかし9月には保持するスックワンキントーンのスーパーバンタム級タイトルマッチで3度のダウンを奪って防衛と、観客を沸かせるファイトを連発。船の運転手でもあり、船乗り兼キックボクサーという他にない二刀流を実践している。
その長身が攻略至難な一因となっている真琴だが、森岡も同じく175㎝の身長を持つ。序盤から仕掛けるだろう森岡を真琴はいかに迎え撃つのか。
■第8試合
古村光 (FURUMURA-GYM) VS 佐野佑馬 (創心會)
古村は兄の匡平ともに活躍する兄弟キックボクサー。今トーナメントに出場する壱・センチャイジムとは3戦して古村の1勝2敗とライバル関係にある。
直近では9月に初進出となった九州でのKNOCK OUT九州大会で兄弟共演が実現。ともにタイ人との対戦となったが、KOタイムがどちらも同じ1R1分43秒。兄がヒジで決めたのに対し、サウスポーの光は左ヒザをボディに突き刺し対戦相手をマットに沈めた。
ベルトこそ4月の対戦で壱に敗れ譲ったものの実力は間違いなくKNOCK OUTのトップレベルにあり、光は「古村兄弟がKNOCK OUTの看板になるので見ていてください」と鼻息荒く、それを実現する格好のチャンス=JAPAN CUP 55㎏トーナメントに選出を受けた。
対して佐野は父親が会長を務める「創心會」の所属で、地元の葬儀社に勤務しながら戦うファイター。
こちらも古村と同じくサウスポーで、そこからの左ミドルを武器とする。初代WKBA日本バンタム級王者であり、6月にはBOMでWMC日本スーパーバンタム級王座決定戦を制し2冠を達成した。この試合では4月のNJKF後楽園大会で繁那と好勝負を展開した鈴木貫太と対戦し、最終回にダウンを先取されるも、そこから逆襲してダウンを取り返し判定でベルトをものにした。
ともに父と子で歩んできた親子鷹で兄もファイター、そしてサウスポーと共通点を多く持つ両者。だがトーナメントに同じ個性を持つ2人は並び立たず。どちらか1人が初戦で姿を消すこととなる。
■第7試合
大田一航 (新興ムエタイジム) VS 前田大尊(マイウェイジム)
55㎏トーナメント1回戦第1試合は、因縁を持つ両者による再戦となった。 大田と前田は昨年7月、前田のホームであるINNOVATION山梨大会で対戦。ジュニアからキャリアをスタートしプロでも数々の戴冠を誇る大田に対し、新鋭・前田が挑む図式となったが、2Rに前田が左ハイを決めダウンを奪取。ヒザとボディ打ちで巻き返しを図った大田だったが及ばず、判定は2-0で前田。地元大会のメインを下剋上の勝利で締めくくった。 大田はその後、今年2月に真琴とのNJKFスーパーバンタム級王座決定戦に臨むも飛びヒザでダウンを奪われ判定負け。続く4月のONE Friday Fightsでも再び飛びヒザでダウンを喫し判定負けとなってしまう。 後のない状態となった大田だが、それでも7月ONE Friday Fightsでの第2戦に臨むと、右ストレートで打ち抜き2R KO勝利。不調を払拭する快勝を上げるとともに、35万バーツ(約150万円)のボーナスも獲得した。今回のJAPAN CUPは復活のみならず、自身が55㎏最強であることを示す舞台としたいところだ。 一方、2005年8月生まれの19歳で嵐と並ぶトーナメント最年少となる前田は、大田戦後にINNOVATIONフェザー級王座決定戦に臨むも基山祐希に判定負け(今年4月)。今大会では唯一戴冠歴を持たず出場となるが、大田を破っていることからも実力は明らか。真の復活を期する大田に対し、前田は自身の存在をアピールする格好の舞台だ。 大田が過去の過ちを正すのか、それとも前田が返り討ちで実力の再証明か。勝者はトーナメントのキーマンとなる。
■第6試合
吉田凜汰朗 (VERTEX) VS サムランチャイ・エスジム(エスジム)
吉田は年間最高試合と王座を獲得した昨年9月の畠山隼人戦で覚醒。デビュー時新人賞に選ばれ、ポテンシャルは秘めながらも近年はくすぶる状況が続いていたが、この勝利で壁を打破し王者にふさわしい試合を連発するようになる。 年が明けると1階級上のNJKFウェルター級王者(当時)青木洋輔とのチャンピオン対決に臨み、青木のカーフに脚を削られ終盤はヒジでのカットも奪われるもリーチを活かしたジャブとパンチの適打で上回り判定勝ち。 続く6月にはシュートボクシングとの対抗戦で基山幹太からダウンを奪って判定勝利。ダウンを挽回せんと打ち合いを仕掛けた基山に、鋭いヒザを突き刺して止め、大会ベストバウトを繰り広げた。 9月大会でも宮越慶二郎を相手に再び年間ベストバウトかと思われる激闘を見せ、惜しくも判定で落としたが、評価は落とすことなく今回のサムランチャイ戦を迎える。元ルンピニースーパーバンタム級2位にして80戦近い戦績、昨年10月にはNKBウェルター級王者カズ・ジャンジラと引き分けと不気味なデータを備えるサムランチャイだが、覚醒以来試合ごとに進化を見せる吉田としてはここは問題なく退けたい。 離れてはミドルとローで遠ざけ、接近戦では首相撲と、相手のよさを消す術に長けたサムランチャイだが、そのリズムに同調することなく吉田は自身の強みを発揮したい。稀代の巧者・宮越との一戦で得たものをこの試合で発揮できるか。
■第5試合
青木洋輔(大和ジム) VS 椋橋SAVAGE秀太 (理心塾)
キックボクシングを追求する団体NJKFにおいて、異端というべき特別試合が行われる。立ち技でのあらゆる打撃はもちろん、パウンドやサッカーボールキックまで認めた究極の打撃戦「PRO-KARATEDO達人ルール」がそれだ。 今回この戦いに打って出るのがWBCムエタイ日本統一ウェルター級王者の青木洋輔。長い歴史を持ち、多くの名選手を輩出してきた大和ジム所属の青木は保持する王座こそムエタイだが、RISEやRIZINとヒジ無しルールでも戦いを積んでおり、今回も過激な達人ルールに躊躇を見せず飛び込んできた。 今年2月、NJKF内の王者対決となった吉田凜汰朗戦ではカーフで吉田を追い詰め、最終盤にヒジでカット。吉田を鮮血で染め、僅差の判定で敗れたものの、ストップもあわやの傷の深さであった。達人ルールは初挑戦となるが、このルールの特徴であるグラウンド打撃に持ち込ませることなく試合を展開、あるいは決着させる技量を十分持ち合わせている。 そんな青木と対戦するのがPRO-KARATEDOで5戦5勝と無敗を誇る椋橋。大会VTRで「この漢 野生につき」「取り扱い注意」など紹介を受ける椋橋は野蛮、獰猛なといった意味のあるSAVAGEをリングネームに持つが、単に野生のパワーだけでなく、逃げにくいコーナー際で倒しすぐパウンド連打に繋げるなど、このルールでの戦いに長けた部分も持っている。 戴冠経験を持ち、キャリアで大きくまさる青木がルールの違いをものともせず椋橋を退けるのか、あるいは椋橋が過激ルールで慣らした力で青木を飲み込んでしまうのか。
■第4試合
繁那 (R.S-GYM) VS 藤井 昴(KING gym)
20歳の繁那(ばんな)と19歳の藤井、NJKFの未来を担う新鋭2人の一戦がマッチメイクされた。 「繁那」はリングネームではなく本名で、ジェロム・レ・バンナにちなんで名付けられ、ここまで14戦12勝(6KO)1敗1分という好戦績で上がってきた。8月にはONE Championshipの「ONE Friday Fights」に初参戦し、18歳で29戦26勝3敗のセンチャイ・ナーヨックウィットトゥンソンと対戦。蹴りで攻めるセンチャイに対し繁那はパンチで対抗し、序盤からエンジン全開のラッシュで僅か1R2分07秒、KOに沈めた。 4月にはKNOCK OUTとの対抗戦に選抜され、鈴木貫太と会場を沸かせる好勝負を展開。キャリア唯一の敗戦は現NJKF王者でJAPAN CUP 55㎏トーナメントに出場する真琴に接戦で喫したもので(23年2月、判定0-2)、NJKFでは大田一航とともにスーパーバンタム級3強の一角を成す実力者だ。 対する藤井は実にアマチュア13冠を成し遂げ、大きな期待を背負って今年2月にプロデビュー。相手を誘い出してのカウンター、鋭い三日月蹴りにハイキックとすでに新人離れした動きを見せたが、相手の祖根亮麻が圧力とタフネスを発揮しドロー。しかし4月には鮮やかな初回TKOを上げ初勝利、続く6月も順当に判定勝ちを収めている。 デビュー戦が57㎏、第2戦がフェザー級、第3戦が56㎏で戦ってきた藤井にとって、今回が初のスーパーバンタム級契約戦。実力・戦績ともに十分な繁那は4戦目には荷が重く感じるが、期待の裏返しとも言える。もしここで藤井が繁那を降せば、その大器ぶりを証明するというもの。あるいは繁那がホープを寄せつけることなく蹴散らしてしまうのか。